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活性酸素生成を支配する植物免疫の仕組みを解明-病害防除に貢献も 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

今回の結果は、以下の重要な結論を導きました。

WRKYによるNADPHオキシダーゼ遺伝子の発現誘導は、病原菌のエフェク

ターをそのレセプターが認識した時に起こる。

MAPキナーゼの基質である4つのWRKYNADPHオキシダーゼ遺伝子プ ロモーターに結合し、その発現を正に制御することが初めて示された。

WRKYの働きを人為的に低下させた植物では、植物免疫機構が崩壊し、病原 菌に冒されてしまうことが明らかになった。

【背景】

世界の人口は爆発的に増加しており、現在約70億人である世界人口は2050年 には約 100 億人に迫ると想定されています。開発途上国を中心に飢餓や貧困が

活性酸素生成を支配する植物免疫の仕組みを解明

病害防除に貢献も

名古屋大学大学院生命農学研究科の吉岡 博文(よしおか ひろふみ)准教授 と安達 広明(あだち ひろあき)博士学生らの研究グループは、植物免疫を支 配する WRKY 型転写遺伝子群が活性酸素の生成を誘導する分子メカニズムを解 明しました。

植物は、病原菌の感染から身を護る独自の免疫機構を発達させてきました。 活性酸素はこの免疫応答を誘導するシグナル分子であり、RBOH によって生成 されますが、その遺伝子発現を調節する因子は分かっていませんでした。今回 発見した4つの WRKY 型転写因子は、協調的に RBOH 遺伝子を誘導します。

吉岡准教授らは、病原菌を感知した植物では、これらの WRKY が RBOH 遺伝 子に直接結合して、発現を誘導することを突き止めました。WRKY の働きを人 為的に低下させた植物では、植物免疫機構が崩壊し、病原菌に冒されてしまう ことが明らかになりました。この研究成果は、植物免疫機構に関する基礎的な 知見として重要であるだけではなく、新しい病害防除技術につながる成果と しても期待されます。

本研究の成果は、米国植物科学専門誌「The Plant Cell」に平成 27 年 9 月 16日に掲載されました。

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大きな問題となっており、このような世界的な食料問題を解決するための対策 が望まれています。病害は、作物収穫の減少をもたらす重要な問題であり、国内 においても、ジャガイモの疫病、トマトの青枯病、イチゴ炭疽病、イネいもち病 や紋枯病など早期に解決すべき多くの重要病害が発生しています。一方、化石エ ネルギー資源の枯渇が世界規模で危惧されていることから、これに代わるバイ オマス植物の開発は急務です。今回の解明は、植物免疫の仕組みに関する基礎的 な知見として重要であるだけではなく、耐病性技術の向上によって作物生産を 安定化させ、爆発的な人口増加に伴う食料問題を解決できる基盤技術としての 応用も期待されます。

植物免疫について

植物病原菌は、エフェクターと呼ばれるタンパク質を植物細胞内に運んで防 御応答を抑制して感染しようとします。これに対して植物は、このエフェクター をレセプターで認識し、頑強な防御応答を誘導します。この生体防御機構は「植 物免疫」と呼ばれています。この反応のうち、最も早い反応が活性酸素(スーパ ーオキシド;O2-)の生成であり、この分子は、細胞死を含む様々な免疫反応を 発動するシグナルとして機能しています。活性酸素は、NADPHオキシダーゼと いう酵素によって生産されますが、どのような分子機構によって制御されてい るかについては不明でした。

【研究の内容】

名古屋大学大学院生命農学研究科の吉岡博文准教授と安達広明博士学生らの 研究グループ(生物相関防御学)は、タバコを実験材料として用い、防御反応の 分 子 ス イ ッ チ と し て 働 く タ ン パ ク 質

リ ン 酸 化 酵 素 で あ る MAP キ ナ ー ゼ が、活性酸素生成を制御していること を以前報告しました。今回は、NADPH オキシダーゼ遺伝子がWRKYと呼ば れ る 転 写 因 子 に よ っ て 制 御 さ れ て い ることを世界で初め発見しました。

具体的には、病原菌のエフェクター を レ セ プ タ ー が セ ン ス す る と 、MAP キ ナ ー ゼ が 活 性 化 し ま す 。 そ の 後 、 MAP キナーゼによってリン酸化され

(3)

た4つのWRKYが、NADPHオキシダーゼ遺伝子に直接結合することで発現を 誘導し、活性酸素生成を亢進することを世界で初めて発見しました。同研究グル ープは、既に WRKY の働きを任意に強めることによって病気に強い組換えジャ ガイモを創出しており、その分子機構を実証しました。近い将来、食料の安定生 産やバイオ燃料の開発に向けて、この技術を他の多くの植物に応用・展開するこ とで病気に強い植物の創生に貢献することができると期待されます。

【研究の意義】

今回の発見は、病原菌に対する耐病性育種として応用できるだけでなく、世界 中 の さ ま ざ ま な 作 物 の 生 産 に 莫 大 な 損 害 を も た ら す 病 害 の 克 服 が 可 能 に な る

「病気に強い植物」の開発に貢献できます。具体的には、植物が本来備えている 免疫力を強める免疫力付与剤の開発・利用を通じ、農作物やバイオマス植物の安 定生産に大きく貢献することが期待されます。

【用語説明】 MAPキナーゼ

MAP キナーゼは、たんぱく質をリン酸化する酵素である。MAP キナーゼは MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)により、MAPKKMAPキナーゼキナーゼ

キナーゼ(MAPKKK)によって活性化される。活性化されたMAPキナーゼは、

基質たんぱく質をリン酸化することでさまざまな細胞応答を制御する。

転写因子

遺伝子のスイッチは、その制御を司るDNA配列に特定のたんぱく質が結合する ことによりオンやオフとなる。このスイッチの役割を担うたんぱく質を転写因 子という。

WRKY型転写因子

WRKY型転写因子は、特定のDNA配列 (W-box配列 [TTGAC(C/T)]) に結合 し、隣接した遺伝子の発現を制御する。

活性酸素種

活性酸素種 (02, H2O2, OH) は、種々のタンパク質を酸化することによってそ の構造を変化させ,様々な細胞応答を引き起こすことが知られている。

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【論文名】 The Plant Cell

WRKY transcription factors phosphorylated by MAPK regulate a plant immune NADPH oxidase in Nicotiana benthamiana. doi/10.1105/tpc.15.00213. (MAPKによってリン酸 化されたWRKY型転写因子は植物免疫NADPHオキシダーゼを制御する) Adachi, H., Nakano, T., Miyagawa, N., Ishihama, N., Yoshioka, M., Katou, Y., Yaeno, T., Shirasu, K. and Yoshioka, H.

本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベ ーション創造プログラム)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構生 物系特定産業技術研究支援センター)の支援を受けて行いました。

参照

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